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高知家庭裁判所 平成10年(少)1246号 決定 1999年3月18日

少年 O・H(昭和58.1.28生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

(1)  中学校2年生のときから、養護施設○○園に入所していたものであるが、入所以来、万引を繰り返したほか、同園内において女性児童と性交渉を持ったり、他の児童に対し暴力を振るうなどして、同園指導員から再三指導を受けていたにもかかわらず、平成10年4月高校入学後も、その問題行動を改めず、万引をしたり、女性児童と性交渉を持ったほか、同園保母に暴力を振るったり、同園内の家庭棟に侵入するなどした。

(2)  平成10年12月9日、少年は、上記(1)記載の非行事実により、当裁判所において試験観察決定を受け養護施設○×園に入所し、以後同園において生活していたところ、平成11年2月19日午前1時過ぎころ、同園内で宿直中の保母の困惑に乗じて、同女と性交渉に及んだ。

このように少年は、保護者の正当な監督に服さず、自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖があり、このまま放置すれば、その性格及び環境に照らし、将来、窃盗、暴行、傷害、強制わいせつ、強姦等の犯罪を犯すおそれがある。

(法令の適用)

少年法3条1項3号本文、同号イ、ニ

なお、当裁判所は、少年に対するぐ犯保護事件(平成10年(少)第1246号)について、観護措置を経て少年を試験観察に付したが、その後少年が、上記非行事実欄(2)記載のぐ犯行状を示したため、さらにぐ犯保護事件(平成11年(少)第145号)を当裁判所調査官の報告により立件して再度の観護措置をとった。これら2件のぐ犯行状は、少年の同じ問題性に由来するものであるから、これらを全体として1つのぐ犯事実と認定した。

(処遇の理由)

少年は、幼児期に両親が離婚したため、父方祖父母のもとで育てられた。その後実父が内縁の妻(少年にとっては、事実上「継母」となる。以下「継母」という。)と同棲を始めたことに伴い、小学校3年生のころからは、実父及び継母のもとで育った。当初は目立った問題行動もみられなかったが、中学校2年生のころから、学校を欠席するなど生活態度も乱れ始め、自宅の金の持ち出しなどがみられるようになり、少年と継母との関係も次第に悪化していった。そのような中、少年は、金の持ち出し、虚言、万引等の問題行動や家庭内で継母から虐待を受けているとの理由で、児童相談所による相談援助活動を経た後、平成8年12月26日、養護施設○○園に入所した。入所してしばらくしたころから、少年は、飮酒、万引、暴行、性的逸脱行為等を繰り返すようになり、同園指導員から再三にわたり指導を受けたが、これに従う態度を示さず、問題行動の中心的存在となっていった(なお、施設の性格上、その指導には限界があったことも指摘できる。)。平成10年11月16日、上記非行事実欄(1)記載のぐ犯行状により、観護措置がとられた。同年12月9日、在宅試験観察となり、養護施設○×園において生活をしていたところ、平成11年2月19日、上記非行事実欄(2)記載のぐ犯行状を示すに至ったため、調査官の報告によりぐ犯立件がなされ、同年2月23日、観護措置がとられた。

少年は、複雑かつ不安定な家庭環境のもと、肉親から十分な養護を受けることなく過ごしてきたもので、施設での生活を余儀なくされる中で、孤独感や愛情欲求不満を募らせてきた。そのため、情緒が不安定で、安定した対人関係を築くことができなかったものであり、他者の感情に配慮しつつ共感的に対応していくことができず、時として過剰に自己の感情や欲求が周囲に受け入れられていると思い込むこともあった。また、充足されない不安定な内面を抱えながら、自分なりに内的安定を図るために、必要以上に大人びた態度をとったり、虚言をつくようになっていった。このような少年の性格や行動傾向等が少年の生活態度や本件非行に影響を及ぼしていると考えられる。少年が試験観察に付されて以降、これらの問題点は徐々に改善方向へ向かっているかに思われたが、その後少年が、試験観察中であるにもかかわらず、さしたる抵抗感もなく宿直勤務中の保母相手に性的逸脱行為に出ていること、2度目の観護措置をとられたことに対して強い不満感を示していたこと等に照らすと、本件の背景にある少年の問題性は深刻化しているとみざるを得ない。なお少年は、保母との性交渉について、「合意があった」、「恋愛感情に基づくものであった」旨の弁解をしているが、一件記録に照らせば、確かに、保母の対応にやや適切さを欠いた点は認められるが、少なくとも少年が相手保母の困惑に乗じて、その真意も確かめないまま、性交渉に及んだことが明らかである。

そして、少年の家庭状況をみるに、実父は、従前から少年の監護に極めて消極的であり、試験観察後も依然としてその姿勢に変化がみられないうえ、継母は持病のため入院し、退院の目処も立っていない(継母は、第1回審判において、少年が帰住することに強い拒絶反応を示している。)ことからすると、今後の家庭での監護に期待することはできない。

以上のような諸事情からすると、少年に対しては、矯正施設に収容したうえで、系統立った教育を施し、その性向上の問題点の改善を図るとともに健全な規範意識や節度ある性意識を身に付けさせるのが相当である。なお、少年はこれまで保護処分を受けたことがなく、非行性自体もさほど深化しているとはいえないものの、過去の生育歴や施設歴(いわゆる「施設慣れ」がみられる)からして、既に指摘した少年の問題点の改善には相当の期間を要するとみられること、保護環境上の問題も極めて大きく、とりわけ継母に対する感情の整理を図るとともに社会復帰に向けて十分な生活指導及び職業指導を施す必要があることにかんがみ、一般短期の処遇勧告は付さないこととする。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、少年を中等少年院へ送致することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 奥野寿則)

〔参考〕 環境調整命令書

平成11年3月18日

高知保護観察所長 殿

高知家庭裁判所

裁判官 奥野寿則

少年の環境調整に関する措置について

少年 O・H

年齢 16歳(昭和58年1月28日生)

職業 無職

本籍 高知県室戸市○○町○××××番地

住居 高知県○○市○□××××番地養護施設○×園

(保護者の住居高知県室戸市○○町○×××番地××)

当裁判所は、平成11年3月18日、上記少年を中等少年院に送致する決定をしました。少年については、円滑に出院後の生活に移行できるようその環境調整に関する措置が特に必要であると考えますので、少年法24条2項、少年審判規則39条により、下記のとおり要請します。

1 措置の内容

(1) 少年の実父及び継母に対し、少年院への面会や通信等を通じて、少年と意思疎通を図るとともに、少年に対する指導や関わり方について話し合うよう指導すること。

(2) 少年の出院後の帰住先及び就労先を確保すること。

2 上記措置を必要とする理由

少年は、幼児期に両親が離婚し、父方祖父母のもとで育てられた。その後、小学校3年生のときに実父が内縁の妻(少年にとっては、「継母」となる。)と同棲するようになってからは、主に継母によって養育されていた。少年が小学生の間は、格別目立った問題行動はみられなかったが、中学校2年生ころから、生活態度が乱れ始めるとともに、問題行動が目立ちだした。このころから親子間の意思疎通も困難な状況になり、結局、少年は、中学校2年生のときに養護施設に入所した。

継母は、少年が帰住することについては強い不安を抱き、審判廷においても、少年との生活を「地獄の生活」と述べている(なお、現在、継母は持病のため入院しており、退院の目処は立っていない。)。加えて、少年の実父は、少年の指導に何ら積極的に関与してこなかったものであり(実父は、少年との関わり方が分からない様子である。)、家庭の監護機能は極めて弱い状況にある。

また、このような状況にかんがみると、実父及び継母側の受入態勢が整わないまま、少年を帰住させても、かえって問題行動を生ずることが危惧される。そこで、家庭における受入態勢の調整を図る一方で、住込就労の可能性も考慮に入れつつ、少年の引受先を確保する必要がある。

なお、詳細は、当庁家庭裁判所調査官○○作成の平成10年12月4日付け及び平成11年3月15日付け各少年調査票、平成11年2月23日付け試験観察経過報告書並びに高知少年鑑別所長作成の平成10年12月3日付け及び平成11年3月12日付け各鑑別結果通知書を参照されたい。

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